「見えるけれど入れない」そんな風変わりな紹介制のワインバーを、20年近く音信不通だった大学時代の友人から任されて早くも6年以上が経ちました。

 

飲食店という性質上なのか、不思議なご縁の場によく立ち会います。山ガールが初めて来れば、隣のグループに山登りが好きな人がいたり、建築家がきたらインテリアデザインの方が久々にやってきて初対面の二人の会話が弾んだり。趣味や業種に出身地や出身校といった、お客様同士の共通点が驚くほど「同日に」揃って交流を始めるのです。

 

17歳年下のICU高校出身者がたくさん来てくれる時期もあって、寮母さん的な気分を味あわせてもらえましたし、5年来の常連客がICU高校の同級生の兄上だと最近判明した時はさすがに驚きました。同窓会も大小たくさん開催してもらえたおかげで、高校時代には話したことがなかった同級生と意気投合し、今では日々連絡をとり合う親友になれたことは最大の悦びです。

 

 

さて、小学生の頃に海外で4年生活をしたときから、私のマイナー人生は始まりました。フランスとモロッコという日本の小学生から見ればマイナーな国、言語、宗教に触れて帰国した私は、3年後に日本人学校枠で合格し「非英語圏のアメリカを知らない」帰国子女です。

 

中学校で好成績だったはずの英語は、同級生が何を話しているかさっぱり聞き取れず、一度あった学年共通英語試験では24だったか、そんな低い数字が存在するのかと聞いたこともない校内偏差値(全国では60台)を叩き出し、英語をはじめとしたメインストリームに対するコンプレックスが醸成されていきました。その後の人生も王道ではない働き方やニッチな業界に属してきましたが、その小さな社会の中さえ主流派ではなく常にどこか距離を置いていました。

 

ワインバーも少し変わっているかもしれません。多くの人がイメージするソムリエのように、グラスをクルクル回して「カシスやクローブの香りの中にミントの爽やかなニュアンスがあり、牛肉の脂とカシスやスパイスが溶け合いながら、ミントと渋味が脂をスッと流してくれますよ」と詩人のように優雅に語りかけることはあまり好きではありません。

 

原かおり先生の薫陶を受けた社会科好きの私は、作り手、現地の気候に地形、時には歴史、現代の社会背景に頼ってワインを短く紹介し、お客様の知的好奇心を少しでもくすぐることがワインに親近感を持ってもらえるようで嬉しいのです。「温暖化がプラスに働いて美味しくなった」「夏には40度にもなる半砂漠気候」「その国では州をまたぐと関税がかかるため、州外には出回らず、わざわざ日本で買っていく人もいる」「金融マンをしていたフランス人が移住して、設備や有機にしっかり投資して丁寧につくっている」「ヨーロッパの伝統とこの国の新しい技術が融合したキレイなワイン」といった感じです。ちなみにこれはすべてカナダのワインの紹介例です。

 

高級ワインや有名銘柄が出る店でもないので、マイナーな地域や品種の気さくなワインもバランスを取りながら推しています。ん?書きながら気づかされましたが、これってまさにICU高校のようなワインバー!?!?色とりどりのプロフィールをもった生徒がいて、彼らがのびのび生活できて初めて成立する唯一無二の空間。私の中にはICU高校スピリッツがしっかり根付いて、それを表現しているだけなのかと、リアルにびっくりです。

 

思えば平成が幕を開けた年の2月18日に面接してくださったのは、伊藤周先生と石川和弘先生でした。名物教師二人の感性がマイナー臭プンプンの私を好んだのでしょうか。光栄にも私はICU高校の一員になれたことで、今たくさんの同級生や卒業生に助けてもらっていることを感じます。そして、卒業生はどなたも清々しい「曲者の香り」をプンプン発して、私に刺激を与えてくれます。

 

そんなワインバーですが、私も齢49。いつまでも深夜に及ぶ立ち仕事の接客業をできるとは思えません。英語を避けて生きてきましたが、グローバル化の波からは逃れられず、英語でしか受験できないワインの資格を目下勉強中です。それでなくても衰える記憶力との闘いで、日々悲鳴をあげ、こんなことなら高校時代に勇気を出してもっとメインストリームに飛び込んでいけばよかった、といまさら30年前を悔やむこともあります。

 

といっても、人生100年時代であるならば収穫の秋はこれからやってきます。アート×町おこし×ワインツーリズムなんて仕事してみたいな、なんてぼんやりした夢を描きながらカウンターに立っています。彩り溢れるユニークなICU高校のような世界観を表現していけるよう、いつ解かれるか知れない答え合わせを楽しみに待ちながら、ワインバーでご縁を繋ぎ、ご縁をいただく毎日です。きっと今日初めて接する人も、どこかでICU生と繋がっているのでしょう。

 

ここまで長文を読んでくれたあなたにも、いつか会える日がくることを願っています。

 

Last:order店主

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