初代生徒会長でございます。当時はハリウッド俳優のジョン・トラボルタが一躍スターダムに駆け上がった「サタデーナイト・フィーバー」が大人気で、私も何回か映画館に通った思い出があります。時代の流行りものに乗りやすい体質です。選挙立候補ポスターはその映画の人気ポーズをしたスナップを写真部の暗室で伸ばして、今夜もフィーバーとか生徒会をフィーバーとかキャッチコピーつけて貼りだしました。でも、会長に当選した大きな要因は、階段教室でおこなわれた立候補演説で応援にお願いしたふたりの友人の掛け合いが人気芸人よろしく大変好評だったことです。ポピュリズムです、いや仲間が本当に大切だということです。

 自分が生徒会を通じて学校をどうしたいかと皆の心にどう届いたかわかりません。その時の原稿もいつかの断捨離でとっくに消えています。少しだけ時計を前に戻します。生徒会が立ち上がるにあたって、その前に生徒会準備室が生徒有志によって設けられていました。新設の学校に新たな組織をつくる、そんな夢や思いをそれぞれ抱えながら何人かがかかわり、先生方とも話ができる人がいて、頭脳も明晰なひとも多く、とにかく何かを始めたいという気持ちがありました。メンバーの一部は生徒会に移行する際にすっかり離れ、一部は立候補を通じてかかわりを持ち続けることになります。私もその生徒会準備室のメンバーでした。でも、先生と歩むことも得意でなく、頭脳も明晰ではありません。なにか形にしたいという主張はしていたと思います。はい、帰国子女です。

 生徒会準備室では、生徒会規約を自分たちでつくり来たる体制に備えました。さまざまな学校の生徒手帳が集められ規約を読み込みました。今も同じ生徒会規約が残っているかどうかわかりませんが、前文の理念の部分ではアメリカ独立宣言や国連憲章、日本国憲法をよく読んで参考にしたことが印象に残っています。理念や思いが組織をリードしていくと本能的に思っていたのでしょうか、あるいは既にそのような考え方を受け入れるだけの環境がICU高校にあったのかもしれません。企業経営における理念経営、えーっとパーパスとかブランドマネジメントとか今のビジネスワードで語られる概念が、1970年代後半に既にこの高校に芽吹いていたのです。

 でも、今思えばそういう考え方で進むことは何の不思議でもありません。アメリカで発展したブランド理論の根底にある考え方は、キリスト教が人々に歩む道を伝える話法を多く参考にしているからです。アメリカではキリスト教的な考え方を心から信奉し生活されている人々と触れてきたし、高校のキリスト教概論の授業でも聖書の一節に書かれている意味について、わからないながらも議論に参加していたことをおぼえています。「ミッション」という映画もありましたね。インポシブルではありません。あ、でもこの映画は1期生卒業後の公開です。「ショー・ミー・ザ・ウェイ」はピーター・フランプトンの恋の歌かもしれませんが、きわめてキリスト教的な言葉でもあります。私たちの高校時代、インターネットはなかったけれど、いろいろなバックグラウンドを持つクラスメイト、アメリカ文化礼賛の雑誌、自由にヌードを放映するテレビ局、大学紛争の洗礼を受けた先輩世代、敗戦の記憶、高度成長、暴走族、ハラスメントという概念がない社会、などなどあらゆる価値観が舞っていました。時代によって流行る言葉、飛びつく概念は違います。そんな中でキリスト教は2000年以上受け継がれ、人々の生活に変わることなく発信しているのは凄いことです。私たちはあまりにもたくさんのキーワードに振り回されながらも、取捨選択し、普遍的真理を求め、迷い、笑い、挫折し、生き残ることに必死です。昔に戻れるなら哲学者になって、一言で世の中を切り、パリジェンヌにモテモテになりたいです。

 初代生徒会長のその後はどうなったのでしょうか。上場企業の役員になることもなく、政治にかかわることもなく、かつて日本的経営の代名詞だった終身雇用からはずれ、やってみたいという自分の夢を追いかけ起業し、目的地を変更しながらも今はサラリーマン時代に身体にしみ込んだブランドマーケティングのアドバイザーをやっています。1期生は還暦になった人とあと少しでなる人です。定年退職し悠々自適の生活を送る人も結構いることでしょう。いい人生です。みんなの初代生徒会長は身体が許す限り引退をすることはありません。そして残された時間が少ないことも、よく理解しています。まだ自分は何も成しえていません。人生は120歳にも届くかもしれません。祖母は昨年110歳で天に召されました。もう少しだけ時間があります。60の手習いで自転車ロードレーサーに乗り始め、Mr.チャガラのペンネームでネットコラム連載が開始しました。チャレンジはこれからです。チャレンジは何に向けたチャレンジでしょうか。自分の中に設けた目標や壁を確実にクリアして「やりたい」をし続ける事なのではないかと思います。

 たくさんの卒業生がICU高校の歴史をつくってきましたが、未来をつくってるのは在校生です。現役大学進学率が90%なんて、時代は違うけれど自分たちのころと比べて、凄すぎます。1期生のエッセイリレーは一旦今回が最後になります。次は2期生にバトンが渡されます。