アメリカにいる咲子から、エッセイリレーのバトンが回ってきた。そんな私は今、人口1万人ほどの町、長野県南佐久郡佐久穂町にいる。雪が積もることは滅多にないけれども、冬はただただ寒いぞーと言われて、移住して初めての冬にそわそわしている。
 移住のきっかけは娘の大日向小学校入学。日本初のイエナプランスクールで開校3年目の新しい学校だ。生粋のペーパードライバーだった私が、毎日運転する生活になるだけでもいっぱいいっぱいだろうし、子ども達の新生活を軌道に乗せながら、しばらくはのんびり長野の美味しいもの巡りでもしようと思っていたのだけれども…気づけば、佐久穂町の地域おこし協力隊をしている。
 大日向小学校の生徒の8割は移住。人口減少が大きな課題である小さな町に、急に舞い込んだ人口拡大のビッグチャンス! が、蓋を開けてみたら供給できる住宅がない。空き家がない訳ではないが、様々な理由で住めない。先祖代々受け継いできた家を手放すというのはこの土地の方々にとっては、とてもハードルが高い。持ち主の方が高齢だと片付けるのも簡単なことではない。しかも寒冷地にも拘らず、この地域の家は断熱がされていない家も多いのでリフォームも大がかり。移住支援も協力隊のミッションのひとつではあるけれども、課題山積。
 地域おこし協力隊は準公務員なので、地域に出向きながら役場へも出入りをしている。公的な側面もありながら、個人としても動いていく。移住者として佐久穂町のことを少しずつ学びながら、自分自身をこの土地にならしている最中だ。「あ〜この感じ。」と宙ぶらりんな感覚に懐かしさを感じている。
 日本で生まれてすぐにオランダ、フランス、日本、アメリカと転々としていたので、幼い頃から「で、私は誰なんだろう」と問い続けていたように思う。海外にいれば「日本人」が強調され、日本にいれば「帰国」と言われる。そのどっちつかずな自分にモヤモヤしていた。
 ICU高校に入ってからは、そんなモヤモヤを共有できる同志もいたし、帰国であることが特別ではないという環境がとても居心地がよかった。いい意味で自分が何者なのかどうでもいいと思えるようになった。
 佐久穂町にとって今はまさにターニングポイント。地元住民と移住者がどうブレンドされていくのが町にとって健全なのかを見つめている。白でもない黒でもない、濃淡様々なグレーがコミュニティを繋いでいく。「宙ぶらりん」な自分を存分に活かせる時だ!と協力隊としての在り方が段々見えてきた今日この頃。
 「自分が何者なのかどうでもいい」と、どっちつかずな自分を肯定できた3年間に感謝している。