こんにちは、24期の松岡千都(旧姓:伊藤)です。
現在、兵庫県の片隅にある「新温泉町」という町に暮らして約10年になります。東京郊外で育った私は西日本の地理に疎く、「兵庫」と聞いてまず思い浮かんだのは神戸あたり。そんな私が「僕の故郷は、家の蛇口をひねると温泉が出るんだ。一緒に住まない?」という夫の誘いに、あまり深く考えもせず首を縦に振ってしまったのです。
駅から徒歩5分という好立地の我が家ですが、肝心の“汽車”(電車ではありません)は2時間に1本。宅配ピザは圏外。人口約12,000人のうち、半分近くが高齢者という、少子高齢化の最前線で日々を送っています。先日、駅前にクマが出たとのことで、子どもの通う小学校ではクマ鈴が支給されました。
「同じ日本なのに、ここまで違うの!?」と驚きの連続だったこの10年ですが、今ではすっかりこの暮らしを楽しんでいます。
これからの季節、休みの日は海風でサビついたママチャリに水着でまたがり、海へ向かいます。魚やウミウシと存分に戯れたあとは、家の温泉でサッパリ。夕飯には、夫が釣って料理してくれたシロイカやアカミズといった日本海の幸を味わう。春は山菜採り、夏は海、秋はキノコ、冬はカンジキを履いて雪山へ。海も山も川も、自然の贅沢を存分に満喫する日々です。
「こんな自然の中で育つ子どもは羨ましい!」と思っていたのですが、住んでみて気づいたことがあります。この町の子どもたちは、実はあまり自然で遊んでいないのです。もちろん、YouTubeもゲームも大人気。週末の定番は、車で40分かけて鳥取のイオン。中には「海や川には危ないから近づかないように」という学校のルールもあります。
「都会では絶対にできない体験が、目の前にあるのに!」
この地域にいて、自然を素通りする暮らしはあまりにも勿体無い!そんな思いから、アマガエルも見たことのなかった私が、なぜか地域の自然体験イベントを企画しようと立ち上がってしまいました。うっかり。
心優しき地域の達人の皆さんや、鳥取の大学生さんたちに助けられ、海の生き物観察会、猟師さんと作るジビエカレー、竹林の竹を切り出して作る本格ビリヤニなど、一年を通して自然と触れ合うプログラムを開催しています。毎回1番楽しんでいるのは、何を隠そうこの私。もしご興味があれば「ブンダバー 新温泉」と検索して、活動の一端をのぞいていただけたら嬉しいです。
話は少し変わりますが、ICU高校で得た一番の財産は「当たり前を疑う」「多様性を受け入れる」という姿勢でした。ただ、地方で暮らすうちに、こういった価値観は都市部や留学経験のある一部の人に偏りがちな「文化資本」ではないか、と感じるようになりました。でも、本来それは一部の人だけの特権であってはいけないはずです。
今、密かに抱いている野望は、「当たり前を疑う力」「多様性への寛容さ」を“自然”を通じて伝えること。たとえば海の観察会でヒトデをひっくり返すと、白い袋のようなものが出てくることがあります。それは、実は胃袋なんです。人間は口から食べて胃に運びますが、ヒトデは胃袋を体の外に出し、貝を包み込んで消化するのです。
「え!? そんな食べ方アリなの!?」
そんな発見が、自然の中には溢れています。自分の「常識」が音を立てて崩れる瞬間、これをこの地域の子どもたちにも体験してほしいと思っています。
もう一つ、この町でのライフワークがあります。それは、外国人住民のための日本語教室のボランティアです。「ICUに7年も通わせてもらったのに、田舎に住んだら意味なかったな。」と移住当初は思っていたのですが、いえいえ、グローバル化の波は日本の果てまでしっかり届いていました。
人口12,000人のこの町にも、約200人の外国人住民が暮らしています。技能実習生や特定技能の労働者、配偶者として、英語教師…国も背景もさまざまです。日本語の勉強だけでなく、ゴミの出し方や病院のかかり方を一緒に学び、逆に彼らからは母国の文化や生活の知恵を教えてもらいます。
また、日本語支援にとどまらず、彼らと地域の人々をつなぐ活動もしています。ホタルを地域のみなさんと一緒に見に行ったり、さつまいもを掘って各国のサツマイモスイーツを作ってみたり。最近では、ミャンマー出身の技能実習生が「暑さ対策にハイビスカスの葉を食べたいけど日本では手に入らない」と悩んでいたところ、地元の農家さんが「よし、畑で育てよう!」と即決。みんなでハイビスカスを収穫しにいって大はしゃぎでした。
そんなこんなで、日本の端っこで自然と戯れつつ世界に繋がるこの生活、まだまだ楽しめそうです。ぜひ、皆さんも遊びに来てください。