自分の原点を考えると、海外に住んだことと、高校3年間の経験が間違いなく大きく影響している。自由と個人を尊重すること。このマインドは大切にしたいと常々思っているが、社会人になってからなかなかうまく舵取りが出来ていないなと感じる時間があった。
社会人になってから、とあるゴールデンウィークに当時両親が住んでいたオーストラリアに遊びに行った。滞在中のある日、母親に連れられて現地で知り合ったという日本人の陶芸家に会いに行った。長らくオーストラリアで活動されている、とても有名な方だった。そんな方とお話できる機会に感謝しつつ、彼女に自己紹介をした。帰国子女が多く集まるICUという高校と大学を経て、今は社会人をしている。そしてこんな会社で働いてます、と。ただ、当時自分が新卒で入った会社はしっくりきてなさすぎて、ずっとぼんやり転職を考えてた。そんな思いが頭によぎりながらだったからか、表情に出たのか分からないが、陶芸家のおばさまはジッとわたしの顔を見て「良い顔をしてるわね、大器晩成するわ。」と言った。その時、うまく答えられず、えへへありがとうございますとごにょごにょよくわからない返事をしてしまった。
言われた時は特に気に留めなかったがオーストラリア旅行からの帰り道、飛行機の中で言われた言葉の意味を考えた。悩んでいる、というワードは出さなかったけれども、私の話す雰囲気から何かを感じ取ったのだろう。自分のやっていることに自信がある人は堂々と話せるものだ。だから自分の歯切れの悪い話し方とかから、何かを汲み取ったのかもしれない。そして彼女なりの励ましとしてそう言ってくれたに違いない、と自分なりに解釈した。人生の大先輩から、大丈夫だよ、と言われた安心感と、芸術家ならではの観点で、自分を良い意味で評価してくださった、と良いように捉えた。本人は何気なく言った言葉かもしれないが、それが妙に嬉しくて、自分の選択肢に悩む時があるとその言葉がふと蘇る。もちろんこの言葉は御守りみたいなもので、行動と選択するのは自分自身なのである。自分の行動には自分で責任を持つということ。その旅行の帰り道で、慣れない社会人生活で狭くなってしまった視界が開けて、ああ、そうだICUハイはそういう自由とか、個人の思いを大いに育むことを大事にしてたじゃん、と思い出すことができた。
今でも仲良くしているハイ生といると、自分は恵まれているなとつくづく思う。自由に、自分のやりたいことを見つけて進んでいる仲間が自分の周りには多い。ただ人の感情は複雑で、他の人と比べたり羨んだりしてしまう時があるものだ。それに上手く向き合うのに卒業してから時間が経ってからになってしまったが、改めてあのカオティックな場所で3年間過ごせたことはとても意義のあることだったと思う。