皆様ご無沙汰してます、24期髙橋雄宇です。現在はNASAのジェット推進研究所(JPL)という、ロサンゼルス郊外パサデナの研究所でエンジニアをやっています。ICUHSの中には南カリフォルニアの帰国子女が多いと思うので、あのパサデナか!と思ってる人もいると思います。研究所はあの1994年、イタリア対ブラジルのW杯決勝戦が行われたローズボールから車で5分のところにあります。パサデナには8年ほど住んで、現在はリモートでコロラド州から仕事をしています。
現在は木星ミッションのJuno(2016年より周回軌道), JAXA火星衛星サンプルリターンのMMX(2026年打ち上げ)、そして地球観測衛星のGRACE C(2028年打ち上げ)に関わっていて、過去には小惑星ミッションのDawn, OSIRIS-REx, Psyche, そして日本の方には馴染み深いハヤブサ2も地球帰還のところだけ少しだけお手伝いしました。一つのミッションを成し遂げるためには何十、何百という専門分野が必要ですが、僕はナビゲーションという専門分野で仕事をしています。更にそのナビゲーションが2つのチームに分かれ、僕は軌道決定、特に重力推定をやっています。探査機がある天体に到着するためには、その目的地に到達するための軌道を作る人(軌道設計)、そして現在の探査機の位置を計算する人(軌道決定)が必要になります。皆さんも携帯で道案内をするときはまず 1. 自分の現在位置を把握して(位置決定)、2. その後ルート作成をします。出発地点が間違ったルート案内は意味がありませんし、同じくルートが間違った案内も意味がありません。これと同様に探査機のナビゲーションも2つの要素が必要になっていて、僕は軌道決定、そしてそれに付随する重力推定を専門としています。
私生活では奥さん(日本人)と2人の子供(7歳と2歳)がいるのですが、長女の方はこちらの日本語補習校に通っています。日本語も英語も流暢に話し、英語が第二言語の僕としては羨ましい限り。こういう子達が日本に帰国してICUHSに通っていたのか〜(特にL1/L2組)と、親の立場になってようやく腑に落ちたという感じです。補習校では日本の授業内容1週間分を1日で終わらせて、宿題も多いしかなり頑張っているなと我が子ながら感心します。それに比べアメリカの現地校は宿題が全く無いので、アメリカ人大丈夫か?と人の国ですが心配になることも。ICUHSで日本の理数科目に付いて行くのに苦労した帰国生は沢山いると思いますが、現地校では教え方が全く違ったりするのでそりゃそうだなと思うようになりました。むしろ複数言語を操って授業を受けれるだけの能力があったのだから、それだけであの友人達はエリートだったのだなと今更ながら思います。
さて、このエッセイリレーですが、実は真実子さんからお知らせを頂くまでは全く存在を知りませんでした。ちょうど数ヶ月前に「こんな数学だったら絶対嫌いにならなかったのに」というICUHSの高校数学入試問題をまとめた本を読んだ(解いた)ばかりで、タイミングが良いなと思って引き受けさせてもらいました。高校時代の思い出は勿論沢山ありますが、僕がICUHSに行って良かったと今でも思えるのは、松本先生がいたからでした。あの何とも言えないふわふわした感じの授業というか、高校数学というよりは趣味の延長線上と言った方が適切なようなあの授業。更に言えば数学をやっているのかさえ曖昧なあの授業。そして極め付きは詩を読んでから始まるあのテスト。詩に共感出来ない時は「このテストはきっと上手くいかないなぁ」と思わされる、そんなテストでした。何故僕があの授業にとても感謝しているのかというと、やはり第一は「先生が楽しんでいる」ということでしょう。僕は博士課程もやりましたし、一番長く学校にいたタイプの人間です。僕は運良く自分が好きなことに巡り合い、それを続けれる環境にも恵まれました。それが今の世界のトップクラスの人間の中で仕事が出来ている理由の一つだと思います。楽しむとは、外から見るだけで無く参加すること。そして疑問を持ったり、発見に感動し、そして勿論上手くいかない時にも諦めない、そんなメンタルが必要です。授業の中で数学が教えてくれる新たな視点や自然の摂理、そしてそれが与えてくれる感動を教えてくれたあの授業には今でも感謝しています。松本先生はまさに数学に生きていました。松本先生、本当にありがとう!ちなみに上記の入試問題集は解説付きで数学が得意で無くとも理解出来るようになっているので、興味がある人は手に取ってみてください。
さて、次にバトンを受け取ってくれるのは同じくアメリカ留学組の綾子です。学部のときミシガン遊びに行ったり、一緒に飛行機乗り遅れたり、カリフォルニアでも再会したり、付き合いの長い友人です。それでは綾子、次のエッセイ宜しく〜。そしてこのバトンを渡してくれた真実子さん、どうもありがとう!