ハイは、私を壊して私をつくった。そんな場所です。
堂々と説明できる自分の個性というものが定まらないことがずっと怖かった。突出している言語能力も計算力も自慢できるユニークな才能もない。正直高校の謳う自由という看板に期待しすぎて自分から動こうとしなかったのが1番の原因だけど、日本の公立学校から逃れたい一心でせっかく掴んだ新しい環境でも、気にしいな性格すぎて自分探しなんてかっこいい事できなくて、高一の頃は学校に行くことをやめたい、とすら思っていました。
そんな私がいい意味でぶち壊された高二。この頃の歌仲間との出会いが私を大きく変えました。
自分を内に閉じこもることが特技にすらなっていた私はどっかに吹っ飛び、人前で歌を歌うことの魅力にどっぷり浸かることになりました。そのおかげで高二からは高校生活を彩れたというか、私なりの形で青春として自分の中に大切にしまうことができたと思っています。なので、ただの素人で別に歌手も目指してないし、ただただ声を出すことが好きになっちゃった私ですが、高校生活のハイライトとして私の中で強く存在感を放つ歌について、書きます。
ちっこい頃からお風呂中になりきり歌謡祭を開いていた私ですが、本当に誰かの前でマイクを手に持つことは高二の学祭でのライブが正真正銘初めてでした。今までは他人からの目や評価に敏感で、かわいく言えばシャイ、悪くいうと今の自分を崩したくないというプライドがずっと邪魔していて。表舞台に立って何かをする人って、「あ、この人は周りより優れた才能を今から見せるんだな」って思われることが普通なんだろうなと私は思っていたんです。そう思われるに値する確証がない状態で人前に立って歌を歌うことに対する怖さというのは本当にとてつもなくて。だから私は、歌を歌うときにひとつ絶対に崩せないモットーというものを作りました。
「あなたに届ける」
という心です。私が初めて歌った曲は、普段面と向かっては言わない父への感謝と愛を代弁してくれる歌詞でした。父に私の気持ちを届けるために、歌を使おう。そう思って一文字一文字手紙を読むつもりで歌いました。そしたら案外周りを気にせずスラスラ歌えちゃって。そして、なんと父、涙目でした。
特別上手いわけもないけれど、「私」が音と共に紡ぐ言葉が「あなた」という人に向けられるとまっすぐ届くという瞬間を味わってしまったら嬉しくて楽しくて、結果十七歳の私、歌の虜になったというわけです。もう、上手い下手とか他人は評価するけど、誰かに向けて歌うという行為が私は純粋に好きなのだと、心から思いました。
歌というものは私の内側のモコモコした感情をいとも簡単に他者に共有してしまう魔法のようなものだと私は感じます。何事に対しても考えすぎるという癖がある私は、思っていることを明確に伝えることができないから言いたいことがあってもすぐそれをしまい込んでしまうというめんどくさい人間です。思うことがありすぎて全体がモコモコしているイメージ。モコモコの一部を誰かに表現しようとすると、触るとすぐ手の体温で溶けてしまうお祭りの綿飴みたいに、うまくまとめて伝えてみようとした瞬間に感情のモコモコが崩れてしまって、1番言いたかった核の部分はどこだったっけ?と見失います。一度それが起こるともうその綿飴全部に湿り気がそのうち電線して結局私の感情の表現がぐちゃぐちゃになってしまうことがわかっているから、人に意図しない形で私の感情が伝わるくらいなら表現なんていらないっか。と諦めてしまう。そんな自分が苦手でした。
けれど何故か自分の感情に響くと思う言葉を音にのせると、間や視線、表情もついてきてくれて、伝えたい人に気持ちを表現できるんです。そしてそれに応えるように観客の中から笑顔を送ってくれる「あなた」を見られる時が本当に幸せでたまりません。家族全員に向けてありがとうの輪という歌を歌ったときには、思い出と気持ちが溢れすぎて途中から歌えなくなってしまって、舞台の上なのにみんなの前で号泣しました。発表としては失敗かもしれないけれど、これは精一杯自分の感情を出せたからこその出来事だと私は思っていて、発表って第三者から見たらただの数分の結果。その裏に隠れた思いは私だけが知っていて、自分が出し切った、うたを届けられる瞬間が幸せだと思えたら歌なんて誰がどう歌っても全部最高だと私は思います。ちなみにこの発表後に家族から一言だけ、伝わったよ。と言われた時は、せっかくの最大級にキラキラなメイクを滲ませるな‼︎とキレたくなるほど、号泣第二波、きました。
高校生活を通して、個性は人それぞれでいいし、自分でこれかもと思うときがくるまでゆったり待っていてもいいと学びました。それに気がつくまで時間がかかりましたが、今は自分自身や感情を歌で表すことを個性と呼んでもいいかも。と思わせてくれます。そんなハイが大好きです。他の学校に行っていたら、こんな風に私を形作る一部が見つかることなんてなかったかもしれない。今までの私を壊してくれてありがとう。新しい私を作ってくれてありがとう。これからも好きなときに好きなうたを、誰かに向けて好きなように歌いたいと思います。