自分らしくいることの大切さを学んだ場所
母が白人である私は、幼い頃から周りと比べて自分は明らかに異質だと感じていた。
道を歩けば周囲からの視線を感じ、鏡を見れば”普通ではない”見た目に違和感を感じていた。そ
のような、なんとなくの感覚が転じて、いつしか如何に周りに自分を良く見せるか、どうすれば
嫌われないかということに執着するようになった。
同級生の嫌がらせに耐えながら目立たないようにひっそりと過ごした小学校を卒業し、中学校に
入ってからは八方美人度合いに拍車がかかっていった。
自分を良く見せるため塾に通い、勉強を頑張った。特に、この見た目で日本語しか話せないとい
うのは、プライドの高い私にとってはかなりの屈辱だったから、英語を人一倍努力した。優秀で
いれば人に嫌われずに済むと思っていた。しかし、どんなに努力をしても、事あるごとに自分の
“異質さ”を思い知らされるのである。何かが人より秀でていても、DNAのおかげにされてしまうの
だ。
英語が上手でも、足が速くても、歌が上手でも、「ハーフだから」と言われる。日本人の持つ白
人コンプレックスは想像以上に根深い。まるで私が初めから全て持っていたかのように、努力が
認めてもらえない。今になって考えてみれば所詮、公立の小中学校など、たまたま学区が同じ子
どもが寄せ集められただけの烏合の衆であり、価値観も合わなければそれが受け入れられなくて
も不思議ではないのだが、人間としての精神的成長の初期段階にいた私にとって、それはとても
苦しいことだった。
このような幼少期の経験を経て、高校受験が近づいてきたとき、志望校を探す中で私にとって一
番大事だったのは、価値観の違いも受け入れられるような多様性のある場所かどうかだった。
片っ端から学校説明会に参加して、ICU高校に辿り着いた時、今までにないほどの高揚感を覚え
た。進学するなら、ここしかない。そう確信した。皮肉にも、八方美人の為に続けてきたお勉強
が、ICU高校への入学の大きな助けになったわけである。
私にとってのICU高校での生活は、入学前に想像していた以上に充実していた。さまざまなバック
グラウンドを持った同級生たちと切磋琢磨した経験は誇らしく、また、人の考えに左右されずに
自分らしく考え行動することの意義、物事を”しょうがない”で片付けないことの強さを学んだ。
自らに幾重にも掛けてきたプライドやコンプレックスという名の枷が外されていく音が聞こえ
た。
そうして、自分らしくいることの大切さを学んだ3年間は、今でも私の人生に影響を与え続けてい
る。生きているかぎり、自分自身と向き合わなければならない場面はこれからもたくさんあるだ
ろうが、ICU高校で得た友人や恩師、素晴らしい経験のおかげで今の私があると断言できる。
最後に、この先の日本にはICU高校のような学び舎がますます必要とされていくと感じている。偉
そうな言い方にはなるが、当時の私のような若者が自分の在り方を見つける為の手助けとなるよ
う、我が母校にはこれからも期待したい。