リビング(石川牧子さん)からバトンを受け取りました、小泉(吉田)恭子です。彼女とは1年4組で同級生となって以来のご縁です。ICUHS卒業後、茨城県の大学に進学し、都内に転職したものの会社に泊まり込みのような生活をしていたお陰で、一時は年賀状だけのお付き合いになっていましたが、家が近くなったのを機に声を掛けてくれ、今では家族ぐるみのお付き合いです。高1当時から彼女の面倒見の良さは変わっておらず、本当に感謝感謝です。
さて、リビのジョギングのススメの次は、山歩きのススメです。
子どもの頃から家で遊ぶ代わりに虫捕りや釣りに出掛けていた私は、その魂を持ち続けたまま成長し、大学では生物学を専攻しました。音楽以外の趣味はキャンプにスキューバダイビング、素潜り、BCスキーなどなど、ほとんど自然の中でのアクティビティです。
そんなわけで山登りも自然と始めましたが、初めて標高3,000メートルを超えたのは2013年なので、割と最近のことです。その年はとあるレースに向けて山トレーニングを重ねたお陰で体力Maxだったため、北アルプスの燕岳から大天井岳経由で槍ヶ岳まで、初心者にしてはハードな2泊3日の行程で縦走しました。通称「表銀座」と呼ばれるルートで、燕岳までは一気に標高差1,200メートルを登りますが、そこから先は稜線歩き、つまり山々の一番高いところをずっと歩くので、視界が開け、天上の世界を旅することができます。槍ヶ岳は山に登らない方でもおそらくTVなどで見たことがあると思いますが、名前の通り、槍の穂先の形をした何ともカッコいい山容で、稜線に出て”槍様”が見えると何とも清々しい気持ちになります。この美しい山を終始間近に眺めながら進み、最終的には登頂できるという贅沢な山旅です。山頂直下の山小屋に泊まると、夜には槍ヶ岳のシルエットと満天の星空を楽しめます。
私はドMではないと思っていますが、登山は下りよりも登りが好きだし、楽勝よりは歯ごたえのある行程の方が好きです。それは、行く手が困難であればあるほど、それを乗り越えた時の達成感は大きく、そして、自分の足で辿り着かない限りは見ることのできない素晴らしい景色が待っているからです。2016年、上高地から穂高岳山荘まで一気に登った行程は最後の最後で600メートルの急登がありハードでしたが、そのお陰で、山頂直下での日没・日の出や、早朝の澄み切った空気の中で見た奥穂高岳付近からの景色は実に素晴らしいものでした。その日は見渡す限り雲海が広がって稜線のみが顔を出し、その遥か向こうには霊山・白山が鎮座し、まさに神々しい光景でした。初めてハーネスを着けてクライミング(ジャンダルム直登)に挑戦した日でもあり、今でも私の中でナンバーワンの忘れられない山旅です。
言い尽くされた話ですが、こういう大自然の真っ只中では、自分の存在はとても小さく、自分の悩みなんて本当にちっぽけなものだなと感じます。ストレスがかかると自分の視野がどんどん狭くなり、ますます追い詰められて負のスパイラルに陥りますが、こうして広大な自然の中に身を置き、人間の力の及ばない大自然を目の当たりにすると「自分を俯瞰で見る」ことの大切さに気付かされます。そして、よりハードなコースに挑み、自分を強くしたいと思うようになります(これはドMの入口かも!?)。山に登ることで、目の前の山だけでなく、自分自身にもチャレンジしているのです。
ところで、山歩きの楽しみはピークハントだけではありません。初夏のお花畑や秋の紅葉はとても美しいですし、山で食べるご飯はとても美味しいです。秘湯もいいですよ。前半の文章で私のことをストイックな人間と勘違いされた方がいるかもしれませんが、私の楽しみの半分は、宿泊地に着いてからの宴会です(笑)。直近では、私の幼少期の愛読漫画『釣りキチ三平』のモデルとなった山小屋のご主人に会いたくて秘境を歩きました。彼は本当に釣りの天才で、漫画のシーンを彷彿とさせるエピソードや岩魚の生態など、一晩中聞いていたいくらい好奇心を掻き立てられました。
山の環境は非常に厳しく、こわい思いをしたことも沢山あります。昨年、こちらの忠告を聞かず装備不十分で雪道を進んだ登山者が、その後滑落したことを知りました。つくづく感じることは、「ベテランほど無理をしない」ということです。自然のパワーはすさまじく、私たちが太刀打ちできるものではありません。事故を起こさないためには、自然に対して謙虚でいることです。余談ですが、上の事故者が忠告に対し「ここまで大丈夫だったからこの先も大丈夫」と答えた時、キリ概で聞いた話を思い出しました。「この先(下流)に滝があるから引き返せ」と忠告したら、そのボートの乗船者は上と同じように答えたのです。
ここまで読んで何かしら「いいな」と思ってくださった方は、ぜひ山歩きに出かけてみてください(安全第一で!)。日本には日帰りでアクセスできて眺望の良い山も、ロープウェイなどを利用して行ける3,000メートル級の山もあります。コロナで海外へ出かけにくい今こそぜひ、近場で新しい世界を体験してみてください!